2019年3月14日木曜日

【高論卓説】ファーウェイ排除問題に思う


高論卓説】ファーウェイ排除問題に思う 浮かび上がる法治システムの差
2019.3.12 09:05

今から100年前の第一次世界大戦、ドイツによるベルギー侵攻で戦争は始まった。無抵抗でフランスへの通過を認めるだろうとのドイツ側の思惑にもかかわらず、ベルギーは果敢にドイツの攻撃を受けてたった。しかし、すぐに大半の国土は占領され、その過酷な占領政策は世界へ報道されることになった。もしドイツが戦争に勝つと世界はどうなるのか、各国は理解した。(作家・板谷敏彦)

 中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は7日、同社と米連邦機関との取引を制限する米国の国防権限法(NDAA)の一部が米国の憲法に違反しているとして米連邦政府を相手に訴えを起こした。正当な権利である。

 2019年度版NDAAでは具体的にファーウェイと中興通訊(ZTE)を名指しして、米政府は19年8月から両社の製品を使わないこと、20年8月から両社の製品を使用する企業との取引を打ち切ると明言している。

 このNDAAは昨年8月14日に可決した翌年度の国防予算の大枠を決めるもので、故ジョン・マケイン議員が中心となって作成し超党派で議決されたものである。共和党でも民主党でもなく、ましてやトランプ米大統領の貿易戦争の取引材料として思いつきで決まったものではない。

 ではなぜ昨年8月の法案が今頃ぶり返されるのだろうか。

 もともとファーウェイは売り上げの2分の1が輸出だが、米市場抜きで急成長してきたので、米国だけの問題であれば直接的な影響は大きくなかった。
ところが昨年10月のペンス米副大統領の「対中政策演説」を皮切りに米国は攻勢を強め、11月にはウォールストリート・ジャーナル紙が「米政府がファーウェイ製品の使用中止を同盟国に要請している」と報道するに至った。これは特に次世代通信技術である5G(第5世代)のインフラ部分の設備についてである。

 当初は諜報活動で協調するファイブ・アイズ(米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)に加えて日本、ドイツも同調するかにみえた。

 ところが英国の通信傍受機関傘下の国家サイバーセキュリティーセンターは「複雑性が増す5G網であってもファーウェイのリスクは技術的に抑制できる」との結論を出した。要所だけ使用を避ければ問題はないとの見解である。これを受けてドイツもファーウェイ排除の態度を保留、ニュージーランドも完全排除には同意していない。

 一方で英国王立防衛安全保障研究会はこれに対して、ファーウェイによる英国5G参入容認は「無責任」であるとして、中国に対してはロシアと同等の警戒レベルでの対処を求めている。

 米のサイバーセキュリティー企業、クラウドストライクによると昨年は米企業と世界の通信網に対する中国のサイバー攻撃が増加している。状況証拠はそこにある。しかしファーウェイの5Gインフラ導入に伴う危険性の具体的な証拠はない。

 スノーデン事件では米CIA(中央情報局)が同盟国に対して遠慮なくスパイ活動をしていたことが暴露された。ならば中国がファーウェイの5Gインフラを使ってスパイ活動をしたとしても大同小異ではないかという向きもある。
しかしこれはつまり、どうせいつか力負けして支配下に入ってしまうとしたら、どちらの国の体制の方がよいかというプリミティブな問題に行き着くだろう。米国政府を米国の憲法違反だと米国内で堂々と訴える中国企業。この反対は現実的ではない。今回の訴えはかえって問題の本質を浮かび上がらせたのではないだろうか。


板谷敏彦